1年ぐらい前の話です。妻と二人で、梅田で食事をしたあと、最寄り駅から自宅へと歩いていると、妻が突然、「月が綺麗ですね」と言いました。唐突に何、その丁寧な感じ?
確かに、南東の方角に綺麗な満月が。「ほんまや」と返事をすると、妻は呆れた様子で、「ねおきは、ほんまに教養がないなあ」
私「どういうこと???」
あまり深く考えることもなく、そこでその会話は終わりました。
先日、「家に帰ると妻が死んだふりをしています。」という映画を見ました。2018年公開の映画で、榮倉奈々さん(役名:ちえさん)、安田顕さん(役名:じゅんさん)が演じる夫婦が主演の物語です。以下、ネタバレがあるのでご注意ください。
この映画の中でのキーワードが、この「月が綺麗ですね」という言葉。私は知りませんでしたが、かなり有名らしく、夏目漱石が「I love you」を「月が綺麗ですね」と訳すように伝えた逸話があるそうです。奥ゆかしい日本人向けの言葉です。
じゅんさんがプロポーズしたときに、ちえさんは「月が綺麗ですね」と答えた。このときのじゅんさんは、プロポーズをはぐらかされて、「どういうこと???」。先述の私と同じ状態です。
何年も過ぎた後、じゅんさんはこの言葉が愛の告白だったことに気づきます。映画を見て言葉の意味を知ったときの私と同じ状態です。
気付いたじゅんさんは、再訪したプロポーズの場所で「わたし、死んでもいいわ」と言います。これは「月が綺麗ですね」という言葉の意味を知っている人が、YESの意味で返す文学的な言葉となっているようです。3年の時間を経て、ここでようやく夫婦の意思疎通が、奥ゆかしく成立しました。
一方、映画を見終わって妻の言葉の意味に気付いた私は、テレビの前で「そういうことやったんや!」と、ほぼ脊髄反射で妻に言ってしまいました。奥ゆかしいの「お」の字もありません。
「ほんま教養のない人」と、改めてありがたいお言葉をいただきました。
共白髪になりそうな夫婦間で、「愛している」というのはさすがに照れくさくて言いにくい。というか、結婚してこのかた、言ったことがないような気がします。
漱石さん、いい言葉を残してくれました。でも、「わたし、死んでもいいわ」という返事はちょっと言いにくい。
「I love you」→「Me, too」だとすると、「月が綺麗ですね」→「その通りだね」でいいと思いますが、日常会話からかけ離れた感じになってしまうので、大阪人の私たち夫婦には「月が綺麗やな」→「ほんまや」ぐらいが丁度よい感じです。
あれ、もともとそう言ったぞ。どうやら、言葉は知らずとも教養は身に沁みついていたようです。
でも、名誉挽回のため、死ぬまでに何度か繰り返そうと思います。「ほんまや!」
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