埼玉で、踏切を出た直後に自車(A車とします)を停車し、車間を詰めてぴったりとくっついてきていた後方の車(B車とします)を踏切内で停車させ、車から降りてB車のドライバーに車間を詰めた運転について注意をしたのちに、踏切の遮断桿が降りてきたタイミングでA車は発進したが、B車は踏切内に取り残されてしまい、進行してきた列車が衝突するという事件がありました。
殺人未遂罪から往来危険罪に切り替え
B車のドライバーは衝突直前に踏切外に退避しており無事でしたが、A車のドライバーが殺人未遂罪で逮捕されることになりました。A車のドライバーはあおり運転を注意しようとしたようです。 「これが殺人未遂になるのか」と驚いていたのですが、その後、殺意が認められないとして、殺人未遂罪から鉄道の往来に危険を生じさせる行為だったとする往来危険罪に切り替えて起訴されました。法定刑としては、殺人未遂罪だと死刑または無期もしくは5年以上の有期拘禁刑、往来危険罪だと2年以上の有期拘禁刑ですから、刑の重さが全然違います。
なぜ踏切内で注意した?
ここからは推測ですが、なぜ踏切内で注意をしようとしたのか。ぴったりと車間を詰められたことが不快で、A車が踏切を出た直後の位置で止まれば、B車は踏切内で立ち往生することになり、車間を詰めることの危険を体感させやすいと思ったのではないでしょうか。あおり運転を注意する方法としては、ある意味効果的な方法と言えなくもありません。
想定外だったのは、B車の運転手が車を置いて逃げたことだったのではないでしょうか。遮断桿が降りても、列車がくるまでには車を発進させて脱出するだろうと高を括っていたのではないでしょうか。残念ながら、B車のドライバーは屋根上につけていたルーフキャリアに遮断桿が引っかかってしまうと判断したようで、車を線路内に放置して退避しました。
危険往来罪の判定の行方は?
それでも、A車のドライバーが一方的に罪に問われて終わるような事件ではないように感じます。論点はたくさんあると思いますが、私は以下の3点が今後の裁判でどのように判定されるのか非常に興味があります。
- 踏切の前方の安全確認ができない場合は、踏切に立ち入ってはいけないのが交通ルールです。A車が踏切直後で停車しているならば、B車は踏切に立ち入ってはならないので、B車が交通ルールを守っていればこの事故は起こりませんでした。
- 踏切の付近10m以内での停車は禁止されているにもかかわらず、A車はB車が続いて踏切内に進入してきたことを認識した上で、わざと踏切直後で停車をしたと思われます。ここには、ルール違反に加えて、B車を踏切内に留まらせてやろうという故意があります。タイミングによりますが列車がくれば事故になります。果たしてA車のドライバーは事故になっても構わないと思っていたのかどうか。未必の故意の有無です。
- B車は踏切から出ようと思えば出られたはずです。遮断桿がルーフキャリアに引っかかったとしても、強引に出ようとすれば折れるなり曲がるなりして脱出できるのに、なぜそうしなかったのか。自分の身を守ることが最優先とはいえ、動かせたはずの車を放置して列車と衝突すれば大事故になることは明らかで、脱出方法を知らなかったということで済まされる話なのかどうか。
この辺りの違反、故意、無知がどのように判断されるのか、とても興味深い事件です。喧嘩両成敗だとすると、B車のドライバーも罪に問われておかしくない気もしますが、今のところ起訴はされていないようです。
老化による正義感の無駄遣い
テレビの映像では、パトカーの中でうなだれて頭を抱え込んでいるA車のドライバーが映し出されていました。JAF(日本自動車連盟)の社員、52歳だそうです。
あおり運転の程度がどの程度だったのかはわかりませんが、おそらく正義感から生まれた注意行動だったはずです。自動車運転に直結するような仕事をしていて、ルールをよく知っていることが影響したのかもしれません。
本人にしてみれば、ちょっとした正義感だったはずが、まさかこんなことになるとは想像をしていなかったことでしょう。余計なことをしてしまった。悔やんでも悔やみきれないと思います。
そんなA車のドライバーに同情している自分がいます。最近年を取ってきたせいか、若いときは全く気にならなかった、取るに足らない小さなことで、他人を注意したい感情がよく湧きます。
一般的に40歳代頃から前頭葉が老化し始めると、感情や欲求を抑えるブレーキが弱まり、怒りっぽくなるそうで、まさにその症状がでているのではと思い当たります。いわゆる「頑固ジジイ」、大阪弁で言うところの「へんこジジイ」に変態してきているのかもしれません。
例えば、列車内でそんな混雑しているわけではないのに、真横に立ってカバンの固い角や濡れた傘を私の足に当ててくる人。満員電車で、立っている人が足の置き場に苦労しているのに、気にすることなく座って靴を前方に放り出している人。扉が開いて降車する人の邪魔になっているのに動こうとしない人。明らかにみな左側通行をしている歩道で、あえて右側を歩き対向する人に道を譲らせる人。自転車は押して歩くのがルールの商店街で注意喚起の放送がされているにも関わらず、混雑した通りを平気で自転車に乗る人。あげればきりがありません。注意をしたくなる感情が湧き上がります。
でも、今回の事件を振り返って改めて思います。B車のドライバーはこんな事故になってしまったから多少は反省するでしょうが、それでもA車のドライバーのせいだと思って終わるのでしょう。そして、もし事故になっていなかったとしたら、大して反省することもなく、車間を詰める素行もこれまでと変えることはないのでしょう、と。
結局、事故になっていようとなかろうと、バカを見るのは正義感を出して注意をしたA車のドライバーです。正義感の無駄遣いにしかなりません。
そもそも、多少注意をされたぐらいで反省して行動を変えることができる人であれば、ルールやマナー違反をしないように普段から配慮をされていることでしょう。
ですから、このような人に注意したところで、何も変わることなどないのです。
さらに、注意をした側も後味が悪いですし、そのことで思考を引きずったりする時間がもったいない。そんな風に考えるようにして、他人のマナー違反を気にしないことにしているのですが、それでも出くわすと、注意したくなる感情を引き起こす前頭葉の老化に抗っている日々です。退職したら通勤しなくてよくなるので、こういった場面が減って、「へんこジジイ」が私からいなくなればいいなと願っています。
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